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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)197号 判決 1952年12月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告代理人弁護士成富信夫の上告理由は別紙記載のとおりである。

右上告理由第一点について、

旧鉱業法(明治三八年法律第四五号)第三条にいわゆる廃鉱とは、一旦掘採された鉱物が、未だ精錬されないうち、所有者により所有権を抛棄され、その存在の状態が、再び同法による制限、監督、保護の下に掘採を要する程度に至つたものをいうと解すべきである。(最高裁判所、昭和二二年(オ)第一八号、昭和二三年四月一三日、第三小法廷判決、民事判例集二巻四号一頁参照)それ故、世上にいわゆる硬山のような形状を備えたものであつても、若し、これを構成する未精錬の鉱物につき、所有権者が未だ曽て所有権を抛棄した事実がなければ、旧鉱業法第三条にいわゆる廃鉱にはあたらないものといわなければならない。その存在の状態が前記の程度に至らないものであるときは、なおさらのことである。

ところで、原審は、本件廃炭につき、その所有者である上告人大日本炭砿株式会社(以下上告会社と称する)が所有権を抛棄した事実はなく且その存在の状態もまた単なる動産の集積にすぎないと認定していることは論旨に摘録のとおりであつて、原判決挙示の証拠によれば、このような事実認定をなし得ないものではないのである。

されば、原審が、本件廃炭を以て、旧鉱業法第三条にいわゆる廃鉱にあたらないものとしたのは当然であつて、論旨は、原審が適法になした前記事実認定を非難するものでなければ、右廃鉱の解釈に関する独自の見解に立脚して原判決を攻撃するに帰するから、採用し難い。

同第二点について、

原審は、証拠により、本件廃炭は貧鉱であるが、選別すればいわゆる選別炭として利用価値があること、平時このような貧鉱を選別することは、採算の関係上、業者の敢てしないところであるが、戦時その他燃料不足の際には選別利用されて来たこと、本件廃炭の存する炭鉱地帯では、この種廃炭の売買が以前から広く行われていること、上告会社は本件廃鉱を他日利用することを予期しつつ、自己所有地内にこれを放置していたものであること並に上告会社は現に戦争のあるたびごとに、これを採掘利用して来たこと等を認定した上、これ等の諸事実(即ち、本件廃炭の品質、この種廃炭の利用及び取引の実情、本件廃炭を放置した上告会社の真意、放置の状況並に本件廃炭利用の実蹟等)を綜合して、上告会社が本件現場に動産たる廃炭を逐次集積するに当つては、所有権抛棄の意思を有しなかつた事実を推認したものであることは、原判文を通読して容易に了解し得るところである。

されば、原判示には所論のような混同はないのみならず、このような事実認定をしても、必ずしも実験則に違背するものとはいい得ない。論旨は、原判決の趣旨を正解しないでこれを論難するものであつて、理由がない。

同第三点について、

論旨引用の最高裁判所判例(第一点既掲昭和二三年四月一三日第三小法廷判決)は、旧鉱業法第三条にいわゆる廃鉱の解釈につき、上告理由第一点に関して説明したと同趣旨の判示をなしたものであつて、いまこれを変更する必要を見ない。

論旨は、所有権抛棄の観念或は旧鉱業法第三条の解釈に関する独自の見解に立脚して、右判例の変更せらるべきことを主張するものであつて、採用の限りでない。

同第四点及び第五点について、

論旨はいずれも、最高裁判所の組織及び運営或は裁判所法第四〇条第一項の運用に関するものであつて、上告適法の理由とならない。

同第六点について、

所論斤先掘契約が無効とされる所以は、その契約の実質が、鉱業権者自身又はその監督の下に立つ鉱業代理人以外の者に鉱業を管理させるに帰し、鉱業経営の経済的重要性とその危険性とに鑑み、到底その効力を認め得ないからであるが、動産である廃炭が集積し、未だ土地と一体化していない状態にあるものを、鉱業権とはなれて売買し、買主をしてこれを採取搬出させても、当該鉱業権を鉱業権者又は鉱業代理人以外の者に管理させると同様の結果を生ずるおそれはないから、右売買契約の効力を否定すべきいわれはない。

原審の認定した事実によれば、本件廃炭は、上告会社によつて未だその所有権を抛棄されていない廃炭が、依然動産として集積しているにすぎず、土地と一体化したものとは認め難い状態にあるというのであるから、原審がこれを旧鉱業法第三条にいわゆる廃鉱と認めず、鉱業権とはなれてした本件廃炭の売買を有効と解したのは正当であつて、右売買はいわゆる斤先掘契約の無効であるのと同様に無効であるとする所論は理由がない。

同第七点について、

論旨は、本件当事者間において別に係争中である硬山搬出妨害禁止仮処分事件(差戻前の最高裁判所昭和二二年(オ)第一八号事件、差戻後の同昭和二三年(オ)第九〇号事件)につき、最高裁判所が同事件の証人神永幸三の証言中論旨摘録の部分を顧慮しなかつたのを攻撃するものであつて、本件についての適法な上告理由とはいい得ない。

同第八点について、

原審は、乙第四号証の一乃至三、第一審検証の結果、第一審鑑定人菊池英雄の鑑定の結果を綜合して、本件廃炭は約三、〇〇〇坪の地域に一丘陵をなしてはいるが、未だ土地と区別できない程度に一体をなすものではなく、動産が動産として多量に集積しているにすぎないと認定したものであること判文上明かであり、叙上の各証拠を綜合すればこのような認定をなし得ないものではないから、原審が証拠に基づかずに事実を認定したという論旨は理由がない。

そして、ある物件が土地の一部若くは土地の定着物と認められるか否かは、必ずしもその分量の如何とはかかわりのないことであるから、たとえ原審が前記のような地域に一丘陵をなしている本件廃炭を以て、土地の一部又は定着物ではないと認定しても、実験則に違反するものとはいい得ない。

なお、原審は、以上の認定をするに当り、「控訴会社(上告会社)に於て本件廃炭の所有権を抛棄したことがない以上」云々と判示しているが、右は本件廃炭を動産と認むべき理由として挙げたものではなく、その動産が上告会社の所有であることをも併せて認定している関係上、このように判示したものにすぎないことは、原判文を通読して容易に了解できる。それ故、原判決には、鉱業権者の所有権抛棄の有無によつて、同一物が、或は動産となり、或は不動産となる結果を容認した不法があるという論旨もまた理由がない。

同第九点について、

旧鉱業法第三条にいわゆる廃鉱は、同条によつて国の所有とされるが、その趣旨は結局のところ、一般鉱物と区別することなく、国の特許による鉱業権の対象となるべきことを意味するものであることは所論のとおりである。

併し、廃鉱として同法条の適用を受けるためには、これを構成する未精錬の鉱物につき、所有権が抛棄された事実の存することが要件であることは、上告理由第一点について説示したとおりであつて、若し、この要件を欠くときは、右未精錬の鉱物がどのような状態にあるかを問わず、またその所在地域を鉱区として鉱業権が存すると否とに拘らず、いわゆる廃鉱として鉱業法の適用を受ける余地はないものと解するのが相当である。

所論はこれと異る独自の見解に立脚して、最高裁判所の判例並に原判決を論難するにすぎないから、採用し得ない。

同第十点について、

原判示によれば、所論(1)の事実は、乙第五号証の一、同第九号証の一、二により、(3)の事実は、原審が適法に認定した「本件廃炭が動産とはいえ控訴会社(上告会社)所有地の相当地域に亘つて多量に堆積している事実」及び「控訴会社(上告会社)がこれを他に譲渡した事実」に基づき、夫々これを認定したものであつて、右各証拠並に間接事実によれば原判示のような各認定をなし得ないものではない。また、所論(2)の事実が証拠によらずして認定されたものでないことは上告理由第八点につき説示したとおりである。されば論旨はいずれも理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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